前回は、ネット上での法律行為としての意思表示の問題を書きました。今回は、その意思表示に「錯誤」があった場合を検討してみたいと思います。
「錯誤」とは、意思表示の生成過程での表意者の主観と現実との間の食い違いをいい、民法では、錯誤により表意者が意識しないで表示したものと、真意とが食い違っている意思表示を「錯誤に基づく意思表示」(95条)といい、その錯誤が「要素の錯誤」(意思表示の要素に係わる錯誤)である場合は無効(同条但書)ということになります。
ネットワーク上での取引の場合、表意者がネットワーク上で行った行為の意味を十分に理解していない、あるいは無意識に画面上のボタンを押すなどの行為を行ってしまったようなときに、これを錯誤による無効であると主張できるかどうかが問題となります。
最近では特に、携帯メールに書かれたリンクURLをついクリックしてしまっただけで、利用規約に同意したものとして請求書が送られてくるといった架空請求が横行しているという報道もあるほどなのです。この場合には、「架空請求」という犯罪行為なので、無視をすることが一番の得策なのですが、一般のネット取引においても、興味本位で利用規約を読まずに同意ボタンを押したり、次々に現れてくるウインドウにある「はい」のボタンを押し続けたりする事は十分に考えられます。
こうした本意とは異なる操作結果の多くは「表示の錯誤」とされ、表意者の錯誤の主張が認められるケースは多くないというのがこれまでの実態のようです。パソコン操作を誤ってしまった場合でも、民法では取引の安全確保の観点から、表意者側に「重大な過失」がなければ無効の主張が出来るとしているので、「重大な過失」の有無が問題となります。
いまのところ、商品の取り違いに関しては「要素の錯誤」にあたるものとされ、数量等の誤りに関しては数量及び価格に関して社会通念上大きな開きがあると見られる場合には要素の錯誤とされうるとされる(「インターネット、電子商取引の法務と税務」(ぎょうせい))ようです。