公証役場といえば、定款の認証や契約公正証書の作成などで私たち行政書士にとっては馴染みのあるところですが、公証人制度についてはあまり知られていないというのが実状だと思います。
そこで、小田原支部では10月30日に平塚公証役場の小林域泰公証人(中央大学大学院兼任講師)を講師に招請し、研修会を実施しましたのでその内容をいただいた資料から簡単に紹介してみたいと思います。
○公正証書作成の利点
(1)作成のメリット
i. 紛争予防上のメリット
① 文書化された証拠を残すこと自体のメリット
② 証拠としての作成経過、内容の明確性と正確性が担保されている
ii. 紛争解決上のメリット
① 執行力
- 金銭の一定の額の支払いまたはその他の代替物もしくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、強制執行認諾条項(文言)があるものを執行証書といい、執行文の付与を受けて強制執行が可能となる。
- 訴訟提起前の和解条項を債務名義化することによって、裁判に要する時間と費用を省くことができる。
- 強制執行を受けるという心理的圧迫によって任意履行を促すこととなる。
- 要件
Ⅰ 債務の特定性(金銭換価できるもの)
Ⅱ 債務の一定性
Ⅲ 支払いの約束
※ 日本の公証制度は、金銭換価ができるものに限って執行力を認めているが、欧州(大陸法)では、家屋の明け渡しなどの事実行為についても執行力を認めている。日本公証人連合会では、法務省に対して執行力の範囲の拡大を求めているそうです。
② 証明力
裁判上の証明文書としての有利な取り扱い(真正に成立した公文書の推定・民訴324条)を受ける。
厳格な手続きを踏み、内容を吟味して作成している。
(2)各種の公正証書
1. 法律行為に関する証書
① 財産関係の証書
金銭消費貸借(準消費貸借、債務弁済)契約、売買契約、贈与契約、不動産賃貸借契約、使用貸借契約、請負契約、委任契約、債権譲渡・債務引受契約、営業譲渡契約等
② 身分関係の証書
遺言、離婚給付、扶養、子の認知、遺産分割協議等
③ 法律上、公正証書によることが要件とされているもの
- 事業用借地権設定契約
- 任意後見契約
- 規約設定(建物の区分所有等に関する法律)
- 企業担保設定・変更契約
要件ではないが、書面によることが必要とされているもの - 定期借地権設定契約
- 定期建物賃貸借契約
2. その他私権に係わる事実に関する証書
- 銀行の貸金庫の開披・移設に関する証書
- 発明品等の形状、作用・効果等知的財産権の証拠保全に関する証書(対象物の確認、保存等特許紛争予防)
- 人の生死に関する証書(安楽死の宣誓等)
- 弁済提供目撃証書
- 家屋明け渡し完了状況に関する証書
- 土地境界の現場確認証書
※ 契約ではないが遺言については、現在、公証人連合会が運営する「遺言検索システム」が稼働しており、公正証書遺言が作成されていれば、全国どこの公証役場であっても検索できるようになっており、その検索によって、作成・保存公証役場の特定、作成年月日等の確認が可能だそうです。ただし、内容の確認は保存してある公証役場でしかできません。