-前回からの続きです。-
では私法上の法律行為の代理でないとすればどう考えるべきかについては興味深い議論があります。
それは、「昭和30年度農事調停裁判官小作主事協議会要録」というものです。以下、その中の議論を引用することとします。
―――引用始め―――
議長 (省略)11問・・・農地法第3条第1項の所有権移転をしようとする当事者双方が第三者に許可申請行為を委任して受委者から申請が行われた場合は民法第108条の双方代理として却下すべきではないか。
(途中省略)
最高裁西裁判官 この代理の趣旨が、本来の法律行為の代理で、意思決定そのものを代理人の判断に委ねるという趣旨でございますと、これはやはり公法上の申請行為について代理を認めることは無理だろうと思います。ただ本人の意思決定の結果を手続上の問題として代理させる、つまり、事実行為についての代理というようなことであれば、農地法は本来合同行為的な意味も含めて連署を要求しているわけで、そういうふうな記載とか手続の関係でもつて同一人に手続を依頼するというようなことは、百八条の問題にしなくてもいゝと考えます。----引用終わり---
ここで、「事実行為の代理」という言葉が使われていますが、この考え方が「本人の申請意思決定の結果を手続上の問題として代理」することを意味するもので、行政が「申請手続代理」を理解する上での通説となっているようです。
以上の点から、行政書士法第1条3第1号の代理権を考察すると、この代理権は、「申請手続代理」であり、行政書士は、依頼者である申請人の許認可申請意思の決定に基づいて法1条の2による書類作成を行い、その書類の提出という公法上の事実行為を本人に代わって行うことになります。従って、現段階ではこの代理は「意思代理」ではなく「事実行為の代理」と解するべきであると考えられます。
ただし、行政手続は手続の簡素化や規制緩和による自己責任の拡大或いは電子化によってそのあり方が大きく変わろうとしている中で、それに対応して行政書士の業務形態も変化をしていくのでありましょうし、又、今後行政書士の代理権を巡る判例や行政実例が生まれることも考えられるので、この「事実行為の代理」という概念を固定的に捉えるのではなく、さらに議論を深めていかなければならないと考えます。